最近やり出した金継ぎのこと、それと金継ぎに関する本のことなどを

 二十年位前(もっと前かも)、お気に入りの絵皿を割ってしまった。南欧風な感じのデザインで、うちの一番大きな皿でもあった。陶磁器というのは気に入ったものほど割ってしまうもので、たいした値段のものではないが意匠にこだわって探して買い求めたものもよく割ってしまった。接着剤でくっついたとしても使い物にはならないだろうし、残念な気持ちで捨ててきた。でもその時は何とかならないかと思い調べてみたら、漆で接着できるらしい。釣り道具の修理に漆を使うらしく、その漆で陶磁器も修理できる、というようなことだった。それで漆は釣り道具店に売っているとのことで、行ってみると実際チューブ入りの漆を買うことができた。

 

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20年ほど前に割れた皿。黒漆で再補修したので割れ目が黒くなった。


 その頃より前だと金継ぎに関する情報はごく限られていたはずで、金継ぎ手引き的な本を大阪市立図書館で検索した中では1998年発行のものが一番古く、他は全部2010年代のものだった。そんな、何の情報もない中で金継ぎ技術を身につけるために随分往生しなければならなかった話が次の本に出てくる。

古今東西陶磁器の修理うけおいます』甲斐美都里著、中央公論新社2002/4

 著者は京都の高校生の頃から骨董に目覚め、とはいえ随分年齢がいってから金継ぎの修行を始めた。まだ素人が金継ぎをするということは皆無の頃だ。ちょっと前まではそんな状況だったのだ。

 それで話を元に戻すと、私にもそれ以上の何の情報もなかった。本当にうまく付くのか、どの程度の強度があるのか、料理を盛りつけても大丈夫なのか、など分からないことばかりだったが、とにかく普通の接着剤のように(チューブ入りなので普通に接着剤っぽく見えた)直接漆を割れた皿に塗りつけひっつけてみた。本当なら漆を乾燥、というか硬化させるためには室に入れて湿気を与えねばならない。が、そんなことも知らず、ただ放置しておいただけなのに一日経つと意外にしっかりくっついているではないか。ただ、はみ出した漆の色が褐色で、絵皿としては残念な仕上がりとなった。オーブンで使える皿だったが、もちろんオーブンで使う訳にはいかない。強度的にもどの程度のものか分からないので、一応付くには付いたが、ほとんど使うことなく結局食器棚の奥にしまいっぱなしということになった。

 それから時を経て、金継ぎという言葉も知ったが、金を使うほど値打ちのある器がある訳でもない。だが、少し端が欠けたがまあ使えないでもない、というものが増えてきた。使えなくもないが、うっかり唇を切らないとも限らない。なんか方法はないか、とたまたま図書館で金継ぎの本を手に取ってみた。

 すると、日常的な器でも金継ぎで補修している。ちょっと読んでみると、接着や欠けを埋めるのには漆に砥の粉を混ぜたものを使うとのこと。うちにあるじゃない、両方とも。そして金粉はあくまで仕上げの、見栄えをよくするためのもの。モノによっては銀粉、銅粉、錫粉などを使うこともあるし、漆仕上げにしても構わない。考えてみたら、漆器は全面漆なんだから。上記の本は具体的なやり方は書いていないので、別に金継ぎの手ほどきの実用書を借りた。

 帰って、まずは本に一通り目を通し、食器棚から欠けたりひびが入ったりした器を選り分けてみる。思っていた以上にたくさんあった。ラッキー、というのも変だが、練習台に事欠かないということだ。

 だが、さっそく始める、という訳にはいかなかった。仕上げをどうするか。金粉を使うほどのものは一つもない。錫粉とかでもいいんだけど、まあ手間もかからず一番安くつく黒漆仕上げが良さそうだ。黒ならどんな器にでもなじみやすそうだし。

 で、ネットで漆を検索。チューブ入りのものもいろいろあるが、たいてい量が多すぎる。普通の塗料よりはかなり高い。ABCクラフトか東急ハンズなら少量のものが売ってるんじゃないかと思い、まずはABCクラフトに行ってみた。さすがに様々な工芸の材料や道具が並んでいる。工芸用の塗料も各種あるのだが、漆だけは見あたらない。本を見ていると、結構金継ぎ教室みたいなのもあるようなのだが、まだ商売になるほどじゃないのか。それともみんなネットで買うからか。ネットが一般化してからやり出した人がほとんどだろうからね。これは東急ハンズも怪しい。この頃のハンズは美術家が材料買うというより、ちょっと変わった完成品を売る店的な感じが強いから。実際行ってみたが、該当フロアに行ってもABCクラフト以上のものはありそうにない。けれど一応店員に聞いてみた。ら、あった。透明のも含めて数種類の色漆(合成のもあるがこっちはホントの漆だと店員は説明した)が、小瓶で、しかもスクリューキャップには筆も付いている。1000円は量の割には高いけれど、これで十分と思い購入した。さすがハンズ、と一応言っておこう。

 これで、あとはうちにあるものでなんとかなる。

 で、この後実際にやってみた編を書こうと思うのだけれど、ちょっとその前にもう一度本を読んで確かめてみたいことがでてきた。ので、今日はこのへんで、続きは乞うご期待(していただけるなら)。